特集記事
JFAこころのプロジェクト スペシャルスタッフ座談会を掲載しました
[ 08.07.29 ]
2008年7月29日 JFAハウスにて
JFAnews2008年9月号掲載

JFAこころのプロジェクト「夢の教室」で、夢先生のアシスタントとして、「ゲームの時間」のメニューの作成・進行のほか、「トークの時間」で夢先生のフォローなども行うJFAこころのプロジェクト スペシャルスタッフ。現在、元Jリーガーの安永聡太郎、式田高義、井手口純の3人がスペシャルスタッフとして活動している。これまで数多くの小学校を訪問してきた3人に、本プロジェクトのこれまでの活動を振り返ってもらった。
夢の教室は、前半35分の「ゲームの時間」と後半55分の「トークの時間」で構成されており、「ゲームの時間」では、チームワークゲームを通して仲間を思いやることの重要性を伝えると同時に、夢先生と児童が一緒に体を動かすことで、緊張を解きほぐし、後半の「トークの時間」へスムーズに導くことを目的としている。
| 児童との距離感を大切にしたい |
――夢の教室では、運動好きもいれば、運動が嫌いな子もいて、運動能力のレベルや参加意欲もばらつきがあります。そういう状況で「ゲームの時間」ではどんなことに注意していますか。

式田高義氏(以下式田):できるだけ全員に目を配るようにしています。クラスに目立つ子がいると、そういう子が積極的に発言することが多くて、それが当たり前になっている。そういうとき、普段あまり発言していない児童を指名したり、そういう子が意見を出しやすいような雰囲気を作るように心がけています。
井手口純氏(以下井手口):逆に、大人しい雰囲気のクラスだったら、ムードメーカー的な児童をみつけて、最初、その児童と積極的にコミュニケーションを取ると、クラスの雰囲気が明るくなりますよね。
安永聡太郎氏(以下安永):僕が一番気にしているのは児童との距離感かな。こちらからどんどん踏み込んでいっていいのか、踏み込んだら逃げていくのか。その距離感を常に気にしていますね。サッカー教室だと、逃げていく子には、「やりたくないんなら、やらなくていいよ」と対応できるけど、夢の教室は、やりたくて参加している子ばかりではないから、できるだけ逃げられないようにしなければいけない。クラスの全員が、最低限の興味をもってもらえるようなラインを設定する必要がある。そうしないと、「トークの時間」で夢先生がやりづらくなってしまうからね。その距離感の押し問答の部分を一番気にしているかな。
――運動が好きな児童ばかりではなく、時間も35分と短いので、あえてサッカー的な要素を封印したメニューにしています。メニュー作成の際には、具体的にどんな点に気を使っていますか。
井手口:あまり難しいゲームだと、やる気をなくす子が出てしまいます。ただ、対象が5~6年生なので、簡単すぎても飽きてしまう。まず簡単な段階からスタートして、児童の理解度やレベルを把握して、ボールを使う、距離を伸ばす、人数を増やすといった形で難易度を上げていっています。
安永:運動能力の低い子がなんとかできるレベルにして、それに対して能力の高い子が、引っ張っていく。そういうメニューにすると、能力の高い子も飽きずに、チームメイトをサポートするために、「自分は何をすればいいんだろう」と考えます。そういう場面が出たら、協力、協調性といったテーマを伝えやすくなる。
式田:僕はテーマの一つである「ルールを守る」という要素を念頭において、メニューを考えていますね。
――「ゲームの時間」で、「今日は難しいな」と感じたときはありますか。
安永:シャイすぎて反応がないときが困る。反抗的だったり、やる気がないんだったら怒ったりして、いくらでも距離感を調整できる。だけど、普段あまり部外者と接する機会がなくて、真面目過ぎて緊張しちゃう児童が多いと、距離感が縮まらないどころか離れていってしまう。あまりにも「俺たちすごいんだよ」とやり過ぎても駄目だし。そういうときが難しいですね。
井手口:はじめからクラスの中にグループができあがっていて、なかなか他の子と組もうとしないときは難しいですね。フリーランニングでグルーピングゲームをやっても、常に同じ子と一緒になったり、逆に常に同じ子が余ったりする。そういうとき無理矢理こちら主導でグループ分けをすると、グループの中で浮いちゃう子ややる気をなくす子が出てくる。学校生活の中で形成されたグループを、35分という短い時間で、再構築するのはすごく難しいですね。
式田:問いかけた質問に関して、なかなか思ったような答えが返ってこないときとか、誰も答えられずに体育館がシーンとしてしまったときは、次への展開に苦労しますね。そういうとき、もう一度、聞き方を変えてヒントを出して、再度問いかけたりします。
| 怒るのも情熱 |
――ときには、やる気がない児童や反抗的な児童がいて怒ることも必要になってくると思いますが。

井手口:担任の先生がいる前で、僕らの立場で怒っていいものなのかどうなのか。当初ずっと迷っていました。ただ幸いなことに、今までそういう場面に出くわしていないんですよね。
式田:ある学校で、最初から全く言うことを聞かない男の子がいたときがありました。そのときは、アシスタントをやり始めたばかりだったので、怒っていいのかどうなのか迷ったんですけど、とりあえずその子を児童の前に立たせて、「そんなにやりたくないんだったら、今から君が授業を仕切ってくれ」と言った。そうしたら、その子はびっくりして、その後はちゃんと言うことをきくようになってくれました。もし、そういう場面があったら極限まで我慢をして、あまりにも雰囲気を壊すようだったら怒るつもりです。ただ、やはり、怒るのは担任の先生の役目だと思いますね。もし担任の先生が怒ることができないのだったら、事前に「ちょっと問題のある子がいるので、必要だったら怒ってもいいですよ」と言ってほしいですね。その一言があるだけで全然違う。
――安永氏は、結構怒っています(笑)。
安永:怒るのも情熱だからさ。俺が怒るときは、「こっちが真剣なんだから、みんなも真剣に向かって来いよ」というとき。ただ、最初はそういう考えだったんだけど、この間、高校の恩師と話をする機会があって、「怒っている間は甘いよ」と言われた。「褒めてあげなきゃだめだよ」って。最初は「どういうことなんだろう?」って、意味が分からなかった。
ただ、この間、自分が夢先生を務めたときに、そのことに気付かされる場面があった。そのクラスは、とにかくやんちゃな子が多くて、まず体育館に5分遅れて入ってきて、整列するのにまた5分。それだけで10分。それでもしっかり整列できていないし、しゃべっている子はいるし…。
まずフリーランニングをしようと思って「体育館の中を自由に動いていいよ」と言ったら、2人の男の子がその場で太極拳を始めたんだよね。たしかに「自由に動け」とは言ったけどさ。怒ろうかと思ったんだけど、体育館の脇にいた校長先生と担任の先生が、明らかに俺の出方を窺っているのに気がついた。俺に怒ってほしいというオーラがありありと見えた。それがすごく嫌で、「絶対怒らないぞ」と決めて、そこからは褒め殺し(笑)。「その太極拳、いい動きだね」とかね。それで最後に「君たちみたいな個性を存分に発揮して自己主張する人は、しない人よりは好きだ。ただ、自己主張するんだったら、他の人の考えも受け入れなくちゃだめだぞ」という話をした。
「トークの時間」でも、その子たちに意図的にどんどん話しかけていった。はじめのうちは茶化して答えたりしてたんだけど、我慢して対応していったらだんだんと真面目に答えるようになった。最後にまた「自分の意見を聞いてほしければ、他の人の意見も聞かなければだめだよ」と言ったんだけど、なんか若干響いていた様子だった。そのときに、なんとなく高校の恩師が言っていた言葉の意味が分かった気がしたんだよね。
集団の中で悪さをしたり、他の人とずれたことをしていても、その子の良さを見つけて褒めてあげるのが大切なんだなとあらためて感じた。やはり大人のほうが経験値は圧倒的に上なんだから、子どもと一緒のレベルになって頭ごなしに怒るのではなくて、ぐっとこらえて、何かしら良いところを見つけて、子どもの心を引っ張り込まないとね。そのクラスでそういう楽しみを、少しだけど見つけられたのはすごく良かった。
3人はスペシャルスタッフとして、さまざまな地域の小学校で、たくさんの児童と接してきた。これまでの活動を通じて、3人の目には、現在の子どもたちや子どもたちを取り巻く環境がどのように映っているのだろうか。
| 聞き分けの良い子、怒られ慣れていない子が多い |
――自分たちの少年時代と、最近の子どもたちの行動や考え方などに大きな違いを感じることはありますか。
井手口:自分が子どもの頃より、静かな子が多い印象がありますね。もっとコミュニケーションをとってほしいと思うことが多々ある。ただ、自分が大人になったからそう思うのであって、自分が小さいときは彼らと同じような状況だったのかもしれない。
それと、怒られ慣れていない子が多い気がします。ちょっと強く言うと、「もういいや」とすぐ投げ出したり、やる気をなくしたりする子が多いですね。
安永:少し前に、ちょうどこのことについて考えてたんだよね。結局、今の子どもと昔の子どもとでは、考え方や行動が大きく違うと思う。それが良いとか悪いとかは別の話で、時代背景、環境、価値感が違うんだから、その中で育つ子どもの考え方や行動は違ってくるのは当然。戦前の人と戦後間もない人、それから20年経った人と考え方が同じはずはない。ただ矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、根本的な部分で今と昔と違いがあるのかと言ったら、違いはないと思う。
たとえば、今テレビゲームやポータブルゲームに熱中する子どもを問題視する風潮があるけど、そういうゲームがあふれた環境なんだから、しょうがない部分もあると思う。「昔の子どもはよく外で遊んでいた」と言ったって、それはその当時ゲームがなかったからかもしれない。でも、そういうゲームを子どもたちに与えているのは大人なんだよね。与えられたら子どもはやるよね。
イデ(井手口)も言っているけど、今の子は打たれ弱いよね。それと、あまりに自分本位な子が増えてきていると思う。それは特に都会で顕著かな。でもそれは子どもだけのせいじゃなくて、周囲の大人の接し方にも大きな原因がある。「子どもが変わった」と言うけど、変えているのは大人だからね。
今の子どもの行動とか考え方があまりにも昔と違って、夢を持てない子が多い。このプロジェクトは、そういう状況を変えるためにスタートしたものだよね。少しずつプロジェクトが順調に進んでいるように見えるけど、まだまだやることはある。どういう風に社会に反響を起こせるのかということをもっともっと考えていかなくてはけないと最近感じ始めた。せっかく、全国の色々な学校を回って、たくさんのデータや経験が集まっているんだから、極端な話、僕らのような教育界の外部の人間の視点で問題点を抽出して、教育委員会ともぶつかってみるのもありかなとかさ。それくらいの意気込みでやってもいいんじゃないかな。
あと、これだけ「ゲームの時間」のノウハウが集まって、ある程度評価も得てきたのだから、僕らのようなスペシャルスタッフが、ある地区の小学校の体育の授業を担当するシステムを作ったりするのもいいんじゃないかな。まだスペシャルスタッフは3人だけど、各地域にどんどんその地域を担当するスペシャルスタッフが増えて、そういう活動ができればいいよね。
――そのほか、この活動を通じて、何か気付いたことはありますか。
井手口:自担任の先生の児童に対する影響は大きいと思いますね。
安永:それは間違いない。元気な先生のクラスは児童も元気が良いし、暗い先生のクラスは雰囲気も暗い。それはこの活動を通じて如実に感じた。
あとはあいさつ。僕らが学校に入っていったとき、先生も児童もみんなしっかりとあいさつしてくる学校は、授業をやってもすごく反応が良い。あいさつはすべての基本とよくいうけど、それは本当だと思う。
スペシャルスタッフは、アシスタントを中心に活動しているが、夢先生を務めることもある。夢先生としての活動からどのようなことが見えてきたのだろうか。
| 現役選手にはぜひ一度やってほしい |
――皆さん自身も夢先生として教壇に立っていますが。
式田:自分が教壇に立って小学生に授業をするなんてことは一生に一回もないと思っていました。夢の教室では、サッカーに関心がないような子どもでも自分の話を真剣に聞いてくれる。その児童のまなざしや表情を見ることができて本当に楽しいし、幸せですね。
井手口:僕は一期一会という言葉が好きなんですが、夢の教室はまさにその言葉通りの活動だなと感じています。「トークの時間」での僕の話は同じでも、それを聞く児童は毎回異なっていて、反応も全く違う。僕の思いをどこまで伝えられるか。緊張感があっていいですよね。
安永:わずか90分間の中でも児童の変化が見えるから楽しいんだよね。どんなクラスでも、自分の話で、児童に何かしらかの変化がある。それを目の当たりにすることができるから、こっちもいい刺激が受けられるし、伝える立場で行っているけど、自分も児童からいろいろと教えられる。だから、夢先生をやった人で、「もうやりません」と言う人がほとんどいないんじゃないかな。何回かやっていくうちに、すごく楽しく感じることができる。たぶん、最初は緊張して自分のやりたいことが100パーセントできなくても、2回目やってみるとちょっと余裕が出て、3回目になると周囲の状況が見えてきて、「これは面白い」と感じるようになる。自分自身の変化にも気付けるし、児童からもパワーをもらえる。
――現役選手に何かメッセージをお願いします。
式田:ぜひ夢の教室をやってほしいですね。自分が選手のときに、こういった活動に目を向けていたかというとそうではない。引退後、いろいろ経験した今の記憶で、現役時代に戻って、この話を聞いたら絶対やりますね。サッカー選手のときはサッカーのことしか頭になかったし、狭い世界での付き合いが多かった。将来のことなんてほとんど考えていなかった。現役時代に色々な経験を積むことは、引退後にもすごく役立つ。夢先生をやると、視野が広がるし、将来のことを考えるきっかけになると思います。今の子どもの現状やそれを取り巻く環境を目の当たりにできるのもすごく大きい。
安永:シーズン中にやるのはすごく労力を使うし、大変だと思うけど、サッカー以外のこういった活動もプロ選手として大事なんじゃないかな。自分が選手のとき、同じことを言えたかというと、多分言えなかったと思うけど(笑)。まぁ、だから僕たちはこの程度の選手で終わったのかもしれない(苦笑)。
児童の前で話すと、今まで自分がどれだけ純粋にサッカーに打ち込んできたかとか、なんでプロサッカー選手を目指したのかとか、そういうことを振り返る機会になるし、「児童に夢を持つことの大切さを伝えているけど、今の自分はどうなんだろう?」と確認できたりもする。児童に何かを伝えようとすると、自分が責任をもった行動をしなくてはいけなくなる。そういう意味で、絶対に自分のためになる。
スペシャルスタッフの僕たちがいくらでもフォローするから、現役選手には、一回だまされたと思ってやってほしい。やってみて、またやりたいと思った人は続けてやってくれればいいし。いやだったらやめればいいし。
ホームタウンの現役選手が夢先生をやるのは、どんな有名なOB選手がやるより効果がある。それはレギュラーでもサブでも関係ない。
井手口:もし現役時代に夢先生をやってたら、もっともっとサッカーに一生懸命取り組んでいたかもしれない。夢先生をやってみて、「プロになるまで、すごく練習していたのに、プロになってから俺何やってたんだろ?プロになるまでの方が頑張ってたじゃん」と思った。
安永:俺もそう!!22歳くらいのときに、夢先生やってたら、違う人生歩んでいたなと思う。絶対もっと良い選手になっていた(笑)。
井手口:若い選手にぜひやってほしいですよね。
安永:プロに入りたての頃って、環境の変化に舞い上がったり、初心を忘れてしまいがちだよね。僕もそうだったけど、プロになれた満足感も出る。だから、将来を期待されている若い選手にはぜひやってほしい。プロになるまでの努力を振り返ったら、「今はまだまだ足りない」って絶対思うから。それで、子どもたちの前で「今の夢は日本代表になることです!!」って宣言してほしい。
――最後に今後の抱負をお願いします。
井手口:失敗を恐れずどんどんチャレンジして、自分を磨いていきたいですね。そうすることが子どもたちのためになる。この活動を通して自分も子どももお互い成長できるようになればいいですね。
式田:僕はまだまだこれからだと思っているので、良いものを取り入れながら、周囲の人から悪い点をどんどん指摘してもらって、自身のレベルを上げて、子どもたちの笑顔を一つでも増やしたいですね。
安永:これだけ負の要素がないものってなかなかないから、プロジェクトが短期的ではなく永続的に続くように頑張っていきたい。正解とか100パーセントがないプロジェクトだから、やりながら色々なことに気付いて改善しての繰り返し。そういう繰り返しをして、一年が終わったときに、自分が一番成長したな、というような形にできればいいですね。
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